民話・伝説
八の太郎伝説
野駄・田中の住人八の太郎はマンダの皮剥ぎが商売。前森で仲間と作業中にイワナ(味噌田楽)の盗み食いをして巨人(八つの頭を持つ大蛇)に変身する。アセ沼を飲み干した八の太郎は、大量の水と棲み処を求めて東北各地を彷徨うことになる。
この物語、飲み干したイワナは語り人によってイモリやサンショウウオだったり、単に美味な霊水だったりするが、アセ沼川は密林を潜り抜ける清流で岩魚の宝庫である。ここでは、八郎が分け前だけでは我慢できなくなるほど美味なイワナとして売り出すのがいいだろう。岩魚の加工食品から、釣り人をターゲットにしたグッズ(マンダの皮で作った魚篭やコダシ、岩場用藁ぐつなど)も考えられる。
ちなみに、岩手山の雪形は、後述する大鷲と種まき坊主以外にもイワナ、蛇竜、ウナギ、イモリ(いずれも地域の伝説と結びつく)などに見立てることができる。
【キーワード】 ・八の太郎・八又の大蛇・アセ沼・アセ沼川・鬼清水・八郎森・マンダの皮・味噌田楽
座頭清水・蛇頭清水伝説
名水百選の金沢清水は、周辺の湧水群の総称だが、主泉には二つの伝説がある。一つは目潰しを食らった鬼が目を洗って治した霊泉として伝わる座頭清水伝説、いまひとつは七つの湧き口の命名の由来となった蛇頭清水伝説だ。まずは名水百選のミネラルウォーターとしての販売のほか、座頭清水伝説から里人が鬼の目潰しに使った飛礫(つぶて)として豆菓子などの開発も考えられる。しょっぱい系のお菓子と組み合わせれば、健康志向で、特に中高年層にはジュース類より水のほうが歓迎されるのではないか。一方、蛇頭清水伝説からは七つの頭(首)を持ち、合体、分身が可能な竜神として、蛇竜のキャラクターマスコットなど、前項の雪形と蛇竜の伝説からもヒントを得られそうだ。
【キーワード】 ・名水・霊水・鬼追い礫・七頭竜
女護沼伝説
殿様夫妻に食された松川御護沼の主のゴマウナギが、奥方の胎内を借りて再生、曲折を経て名湯松川温泉への湯治を口実に、再び御護沼の主に納まるという物語。女護姫(百合姫)、実はゴマ鰻の化身ということで温泉水利用の養殖鰻(ヤツメウナギ)を開発できないか。姫のカツラ、カンザシだという浮島にちなんでお土産用の「浮島饅頭」や「浮島せんべい」、特注ウナギの「浮島まべ」などの開発も可能だ。いずれも温泉宿でのお茶請けや目玉メニューとして提供できればベスト。姫様の湯治行にちなみ「女護姫ロード」を設定、駕籠立て場などの地名も活用した物語仕立てにすれば新たな散策コースの開発も可能だし、バス道路の送迎客サービスも充実する。
【キーワード】 ・御護沼(・女護沼・五合沼)・湯坂・湯坂沼・その他の沼々・駕篭立場・女護姫・百合姫・ゴマウナギ・ヤツメウナギ・浮島
岩手山の雪形とノギの王子伝説
雪形としては大鷲が県下の共通認識だが、八幡平市からの視点ではノギの王子伝説の「子さらいの大鷲」としても紹介できる。春の市内遊覧などでは、単に西岩手の猛々しい景観美を紹介するだけでなく、里人が農作業の目安にした「種まき坊主」の雪形、さらには「神の化身である大鷲が、岩手山の開山を促すために子さらい大鷲の幻を見せてノギ王子(乞食・流れ者・修験僧などに化身)を誘導した」という伝説の解釈を加えることによって、岩手山の猛々しさ、雪形の美しさはさらに奥行きのあるものとなり、新鮮な感動を与えられるのではないか。雪形せんべいなどのほか、種まき坊主グッズなども開発できそうだ。
【キーワード】 ・雪形・大鷲・子さらい大鷲・ノギの王子・種まき坊主
長者屋敷伝説
長者屋敷は縄文から平安時代にかけての遺跡が確認されている県内でも有数の古代遺跡である。民間伝承の豆渡り長者や上田村麻呂の東征に絡むお釜霊場や太刀清水、時森伝説などの言い伝えも多い。アイヌのチャシ、蝦夷の族長の居城、長者の館と、いずれの説もそれと思わせる地形や雰囲気を備えている。
特に、巨岩の下から湧き出す清冽な湧水は古代の人々にとっても極上の恵みだったであろう。ここでは八つの湧き口に水神を祭って守ってきた長者清水〈群〉の活用にスポットを当てたい。ミネラルウォーターのはしり「長者の水」のリメイクのほか、豆渡り長者にちなんだ豆菓子や五穀菓子、豆俵グッズなどの開発は出来ないか。
【キーワード】 ・豆渡り長者・長者大豆・御穀(五穀)・水神・蔵(倉,盤)の水
大銀杏の乳神伝説
寄木の大銀杏(市指定文化財)は幹の目通り約8メートル、高さ20メートルに及ぶ巨木であるが、周辺には大神宮を中心に駒形神社、岩手山神社、八幡神社、八坂神社などがあり、樹齢350年クラスのイチョウやスギ、サワラ、キャラなどの巨木が点在する。特に井森の大イチョウは一本だけでも森の様相を呈するほどの枝振りで、樹下は夏でも涼しい。メスなのでたわわな実をつけるが、大きな無数の気根は垂れ乳を思わせおどろおどろしさが漂う。つい最近まで、子宝を願うカップルや母乳の出を気遣う女人たちに乳神様と慕われた。その昔、これらの神々を渡り歩いていた白狐が死んでいた場所としてお稲荷さんが祭られている。
乳神伝説から、健康テーマの食品や子宝グッズの開発。(銀杏の実、葉っぱなどの活用も含め)
【キーワード】 ・巨木・巨乳・イチョウ・ギンナン・子宝・健康食品
赤沼伝説と神秘の泉
岩大名誉教授の吉田稔氏によれば、赤沼(別名五色沼)は流入水が全くない湖で、形は茶筒のような円筒形。水深10~11メートル、平な湖底の一部から湧いてくる湧水が溢れて隣の御在所沼に注ぐ。松尾鉱山の硫黄の鉱床と温泉湯脈の影響で、強酸性の特殊な水質で、湖水の上層下層の循環や停滞、気温や化学反応などによる他に類を見ない複雑な変色のメカニズムを持つという。「五色」の名のつく沼は各地にあるが、一つの湖でこれほど顕著な変化を示す湖は全国唯一であるという。
さて、この赤沼にまつわる伝説である。釣と猟を無常の楽しみとする畑浅左ェ門という風流人が、と、ある密林の中でたどり着いた沼は、あたりの蒼然を映し青々と輝く不思議な湖面の沼だったという。そこに鴨らしきものを見てとり矢を放とうとするが、鴨は一瞬にして大波と化し浅左ェ門に襲いかかる。「今後は鴨射ちはしないし何人にもさせない。」との誓いを立てて難を逃れた浅左右ェ門であったが、襲いかかった大波は鳥獣殺生の戒めだったのか、自然破壊への警鐘であったのか。
【キーワード】 ・五色・コバルトブルー・ライトブルー・硫黄鉱脈・湯脈・鴨
蟇沼伝説
古寺の和尚夫婦に蝶よ花よと育てられた長い黒髪につぶらな瞳の美しい娘いた。年頃になり自室に篭もりもの思いにふけるようになる。日増しに青ざめやつれてゆく娘は、夫婦の詰問に見知らぬ美成年が夜毎訪ねてくることを告げる。夫婦は計を案じ、衣に仕掛けた針と糸を頼りに青年の正体にたどり着く。なんと、それはこの沼の主である大蟇ガエルであった。ことの仔細を娘に告げて別れを説得する。やがて娘は容色を取り戻し、一段と美しくなって良家に嫁ぎハッピーエンドとなる。
松尾には「がま沼」が二つある。八幡平は「ガマ沼」とカタカナ表記、畑の沼は「蟇沼」と漢字表記で区別している。故瀬川経郎氏は「八幡平のがま沼は本来火口湖なのだから「釜沼」であり、今後は「釜沼」と呼ぶことを推奨したい」と、その著書『新いわて風土記』で述べている。畑の沼も火口湖であるかもしれないが、植物の蒲も多いし、動物の鴨の飛来も多く蟇ガエル(ヒキガエル)も多く棲む。ここに伝わる伝説はこの蟇ガエルに因むもので、畑が舞台であろう。
【キーワード】 ・ヒキガエル・蒲の穂・鴨
松尾ふるさと案内人 畑健吉氏の監修によるものです。